漢方薬による治療
ご希望の患者様には、漢方外来において、漢方薬を使った治療を行っております。
皆様は漢方というと、どんなイメージをお持ちでしょうか。
これまで一般の医療機関では、あまり漢方による治療がなされてこなかったので、よくご存じでない方も少なくないかと思います。
以下で、漢方について簡略にご説明しましょう。
漢方は日本の伝統医学
漢方は、奈良時代に中国から入ってきた古代中国医学が、その後日本で独自の発展を遂げたものであり、したがって日本の伝統医学です。しかし、時の明治政府が国の方針として、西洋医学を学んだ者のみを医師に認定した影響で、一時は影を潜めていました。しかし一方では、それ以降も多くの医師たちが漢方医学を発展させ、治療を行ってきたのも事実です。最近は漢方の良さが広く再認識されており、医学部の講義でも必修科目になりました。
それに漢方は、決して西洋医学と相反するものではありません。むしろ、西洋医学的な手法を存分に活かすなかで漢方治療を受けていただくことも可能です。
また、漢方薬は効くのが遅い、保険が利かないというイメージ・認識が広まっているようですが、決してそんなことはなく、たとえば風邪などの急性疾患に対して速効性がある薬がありますし、保険適用の漢方製剤もたくさん出回っています。
漢方処方の仕方
誰もがもともと兼ね備えている「自然治癒力」を高め、体を本来あるべき状態に整えるような処方を行うのが基本です。
一人一人の自然治癒力を高めるためには病名で診断するだけでなく、証(漢方的な基準からみた患者さんの心身の状態)や病態によって最も適した薬を選び、使い分けることが必要になります。ですから、同じ症状だからと言って同じ漢方薬を使用しても、人によって効いたり効かなかったりします。その人に合った漢方薬を、その人に合った飲み方で使う必要があるのです。
漢方薬だけを数種類組み合わせる方法、西洋医学の治療薬と併用する方法等、一つの症状でも、患者さんお一人お一人それぞれに異なってきますし、同じ患者さんでも体調の変化により処方は変わってきます。
漢方では、患者さんの体質と病態の双方を考慮に入れながら、そのときどきの処方をするのです。
漢方は不調対策も得意
また、人の体は健康と病気の二つの状態にはっきりと分かれるのではなく、体調がすっきりしないのに医療機関で検査しても「異常無し」と言われるような、白でも黒でもない灰色の状態があります。これを漢方では「未病」と呼び、はっきりした病気ではないのですが、病気が本格化し、症状が顕在化する前の状態と考え、放置すれば病気になる可能性があると考えます。
体質を改善したり、体の治癒力を高めたりして病気が悪くなる前に治していくのが漢方の基本的な考え方です。西洋医学では病気とは見なされないような不調も、漢方は得意とするところなのです。
女性と漢方
女性特有の不調に大きな影響を与えているのが女性ホルモンの変化であり、閉経時に起こる更年期障害などは、その代表例です。
更年期障害のほか、初経時、妊娠・分娩時、毎月の月経などのホルモン変化によって起こる症状としては冷え、肩こり、イライラ感、不眠などがあり、どこが悪いと明確にできないこうした病態を西洋医学では「不定愁訴」「自律神経失調症」などと呼び、あまり積極的な治療は行ってきませんでした。
これに対し漢方では、体全体のバランスを整える観点から、ホルモン変化によって生じる様々な症状、どこが悪いと特定できないような病態を改善するのに効果を発揮します。
日本人女性の平均寿命が87歳近くにもなり、閉経後30年以上を生きる女性にとって、この長い年月をいかに過ごすかは重要なテーマです。女性にとって、漢方治療は今後もますます無くてはならない医療になっていくと思われます。